画像セグメンテーションとは?画像処理における役割と他技術との違いを解説

画像セグメンテーションは、画像をピクセル単位で複数の領域に分割し、各領域に意味を持たせる画像処理技術です。単純な画像分類や物体検出とは異なり、物体の形状や境界まで正確に把握できる点が最大の特徴といえます。 本記事では、画像セグメンテーションの基礎知識から、他の画像認識技術との違い、3つの種類、処理手法、そしてアノテーションの重要性まで、体系的に解説していきます。画像処理技術に携わる方々の参考になれば幸いです。

目次

画像セグメンテーションとは

画像セグメンテーションとは、デジタル画像を複数の領域に分割し、各領域に含まれる情報を分類する画像処理技術を指します。「セグメンテーション(Segmentation)」は日本語で「分割」を意味する言葉であり、画像内の各ピクセルがどのカテゴリに属するかを識別する処理が行われる仕組みです。

この技術により、画像の細かな領域ごとに意味を持たせることが可能となり、視覚的な情報をコンピュータが理解できる形に変換できます。たとえば、道路の画像であれば「この部分は道路」「この部分は車」「この部分は歩行者」というように、各ピクセルにラベル付けを実施する技術です。

画像セグメンテーションは、単に物体の位置を特定するだけでなく、物体の正確な形状や境界線まで把握できる点が重要な特徴となっています。この能力により、医療画像での病変部位の特定や、自動運転での走行可能領域の識別など、高精度な解析が求められる分野で広く活用される技術です。

画像認識における3つの技術

画像認識技術には、処理の詳細度に応じて主に3つの手法があり、それぞれ異なる目的と特徴を持っています。用途に応じた適切な技術選択が、システムの性能を左右する重要な要素です。

ここでは、代表的な3つの画像認識技術について、特徴と活用場面を整理します。

  • 画像分類(クラシフィケーション)
  • 物体検出(ディテクション)
  • 画像セグメンテーション

画像分類(クラシフィケーション)

画像分類は、画像全体に対して1つのラベルを付与する最もシンプルな画像認識手法となります。「この画像は犬」「この画像は猫」というように、画像全体を特定のカテゴリに分類する処理が行われる技術です。

この手法の特徴は、画像内の物体の位置や形状を認識しない点にあります。画像に何が写っているかを判定することが目的であり、それがどこにあるか、どのような形をしているかは考慮されません。処理負荷が比較的軽く、高速な判定が可能な利点があるといえるでしょう。

活用例としては、写真の自動分類や、商品画像の種類判定などが挙げられます。大量の画像データを効率的にカテゴリ分けする用途に適した技術です。

物体検出(ディテクション)

物体検出は、画像内の物体の位置・種類・個数を特定する技術です。バウンディングボックス(矩形)で物体を囲むことにより、「何が」「どこに」「いくつ」あるかを識別できる手法となっています。

画像分類と比較すると、物体の位置情報も取得できる点が進化した部分といえます。ただし、バウンディングボックスは矩形であるため、物体の正確な形状までは把握できません。複雑な形状を持つ物体の場合、矩形の中に背景部分も多く含まれてしまう制約があるのです。

自動運転における車両や歩行者の検出、防犯カメラでの人物追跡、製造ラインでの製品カウントなど、物体の位置と数を把握する必要がある場面で威力を発揮する技術です。

画像セグメンテーション

画像セグメンテーションは、ピクセル単位で領域を分割・分類し、物体の形状・境界まで正確に認識できる最も詳細な画像認識技術です。バウンディングボックスのような矩形ではなく、物体の実際の輪郭に沿った正確な領域抽出が可能となっています。

この手法の最大の特徴は、画像内の各ピクセルに対してクラスラベルを割り当てることで、物体の正確な形状を把握できる点にあるといえます。たとえば、不定形な道路領域や、複雑な形状を持つ病変部位なども、正確に識別することが可能です。

一方で、最も詳細な画像認識が可能な反面、処理負荷も高くなる特性があります。ピクセル単位での分類処理が必要となるため、計算リソースと処理時間の両面でコストがかかる技術です。しかし、その高精度な解析能力により、医療診断や自動運転など、正確性が最優先される分野で不可欠な技術として活用されています。

画像セグメンテーションの3つの種類

画像セグメンテーションには、処理方法と識別レベルに応じて大きく3つの種類が存在します。それぞれ異なる特徴と適用場面を持っており、解決したい課題に応じた適切な選択が求められる技術です。

ここでは、代表的な3つのセグメンテーション手法について詳しく解説します。

  • セマンティックセグメンテーション
  • インスタンスセグメンテーション
  • パノプティックセグメンテーション

セマンティックセグメンテーション

セマンティックセグメンテーションは、ピクセルごとにカテゴリラベルを付与する手法であり、同じカテゴリの物体は区別しない特徴を持っています。たとえば、複数の人が写っている画像では、すべての人を「人」という一つのクラスとしてまとめて認識する仕組みです。

セマンティックセグメンテーションの特筆すべき点は、道路・空・建物など不定形領域の検出に優れていることです。明確な境界線を持たない対象や、広範囲に広がる領域を正確に識別できるため、自動運転における走行可能領域の認識に適した技術といえるでしょう。

ただし、同じカテゴリ内の個体を区別できない制約もあります。2台の車が重なって写っている場合、両方をまとめて「車」という一つの領域として認識してしまうため、個別の車両数をカウントすることはできません。

インスタンスセグメンテーション

インスタンスセグメンテーションは、同じカテゴリ内でも個体ごとに区別する手法です。重なり合う物体も個別に識別可能であり、それぞれの物体に一意のIDを付与することで、正確な個数把握ができる技術となっています。

たとえば、群衆を撮影した画像では、個々の人物を「人1」「人2」「人3」と個別に認識し、たとえ人物同士が重なっていても正確に分離できる能力を持っているのです。この特性により、人数カウントや個別製品の検出に適した手法といえます。

活用例としては、混雑状況の分析における人数カウント、製造ラインでの個別製品の追跡、細胞画像における細胞数の計測などが挙げられます。個体識別が必要な場面で威力を発揮する技術です。

パノプティックセグメンテーション

パノプティックセグメンテーションは、セマンティックとインスタンスを統合した最も高度な手法であり、背景領域も含めた全ピクセルにラベル付けと個体識別を同時に実現できる技術です。最も複雑なシーン解析に対応できる反面、処理負荷も最大となる特性があります。

この手法では、道路や空といった不定形の背景領域はセマンティックセグメンテーションで処理し、車や人といった個別物体はインスタンスセグメンテーションで処理します。両手法の長所を統合することで、画像全体の包括的な理解が可能になる仕組みです。

自動運転における統合的環境認識や、ロボットビジョンでの複雑な作業環境の理解など、最高レベルの画像解析が求められる場面で活用されています。画像内のあらゆる要素を正確に認識・分類する必要がある用途に最適な技術といえるでしょう。

画像セグメンテーションの処理手法

画像セグメンテーションの処理手法は、従来型の古典的アプローチとディープラーニングを用いた現代的手法に大別されます。それぞれ異なる特徴と適用場面を持っており、要求される精度や計算リソースに応じた選択が重要です。

ここでは、代表的な処理手法について解説します。

  • 従来手法(しきい値処理・エッジ検出)
  • ディープラーニング手法(FCN・U-Net・SegNet)

従来手法(しきい値処理・エッジ検出)

従来の画像セグメンテーション手法は、色や明るさといった各ピクセルの基本的な視覚特性を利用して領域分割を行う技術です。シンプルで直感的なアプローチであり、処理が軽量で高速動作が可能な利点を持っています。

手法 処理方法 特徴 代表的なアルゴリズム
しきい値処理 ピクセルの明るさ(輝度)が特定の閾値を上回るか下回るかによって画像を二値化し領域分割 背景と物体のコントラストが明確な画像で効果的に機能し、計算コストを最小限に抑えられる 大津の二値化法など、最適な閾値を自動決定するアルゴリズム
エッジ検出 明るさやコントラストの変化点から物体の境界を検出。隣接するピクセル間の輝度変化が大きい箇所をエッジとして識別 物体の輪郭抽出に活用され、セグメンテーションの前処理としても有効 ソーベル法、キャニー法、ロバーツ法、プレウィット法など

ただし、これらの従来手法には明確な限界も存在します。複雑な背景を持つ画像や、照明条件が変化する環境では精度が大きく低下してしまうのです。また、事前に設定したルールに基づく処理であるため、多様な状況への柔軟な対応が困難であるという制約があります。

ディープラーニング手法(FCN・U-Net・SegNet)

ディープラーニングを用いた手法は、大量の学習データから自動的にパターンを学習し、高精度なセグメンテーションを実現する技術です。従来手法と比較して圧倒的に高い精度を達成できる反面、大量の学習データと計算リソースが必要となる特性があります。

手法 構造の特徴 主な利点 主な用途
FCN(Fully Convolutional Network) 全結合層を持たない全層畳み込みネットワーク。畳み込み処理で得た特徴マップをアップサンプリングして出力 任意サイズの入力画像に対応できる柔軟性。セマンティックセグメンテーションの基礎技術 一般的な画像セグメンテーション
U-Net U字型のEncoder-Decoder構造。スキップ接続によりエンコーダ側の特徴マップをデコーダ側に直接渡す 少ないデータでも高精度な結果が得られる。ダウンサンプリング時の情報損失を補う 医療画像セグメンテーション、少量データでの学習
SegNet エンコーダ・デコーダ構造。Unpooling(学習不要な処理)を使用 計算効率を向上させながらメモリ使用量を削減。高解像度出力を実現 屋外環境(道路・建物)のセグメンテーション、エッジデバイスでのリアルタイム処理

これらのディープラーニング手法は、従来手法では対応困難だった複雑な画像にも高精度で対応できる能力を持っています。ただし、高性能なGPUや大量の学習データが必要となるため、導入コストと運用コストのバランスを考慮した選択が求められるでしょう。

画像セグメンテーションに必要なアノテーション

高精度な画像セグメンテーションを実現するためには、正確なアノテーションが不可欠な要素となります。アノテーションとは、画像内の各ピクセルに対して正解ラベルを付与する作業であり、AIモデルが学習するための教師データを作成する重要な工程です。

セグメンテーション用のアノテーションには、他の画像認識タスクと比較して特有の課題が存在します。

課題 具体的な内容 対策
作業難易度の高さ ピクセル単位での詳細な作業が必要。物体の輪郭を正確になぞる必要があり、複雑な形状や微妙な色彩の違いにも対応が求められる アノテーションツールの活用、作業手順の明確化
作業負荷・コストの増大 品質重視のアノテーションでは1画像あたり90分を要するケースもあり、大規模データセット準備時には膨大なコストが発生 半自動アノテーションツールの活用。インタラクティブセグメンテーション技術により作業時間を約70%削減できた事例も。
品質のばらつき 作業者によって境界線の引き方が異なると、一貫性のない教師データとなりAIの学習精度が低下 詳細なガイドラインの策定、ダブルチェック体制の構築、品質評価指標の設定
専門知識の必要性 医療画像や専門分野では領域知識が必須。誤ったラベル付けはAIの誤判断に直結 専門家によるレビュー体制の確立、専門アノテーション会社への委託

これらの課題に適切に対処することで、高品質なアノテーションデータを効率的に作成し、精度の高い画像セグメンテーションモデルの構築が可能となります。適切な人材確保と品質管理体制の整備が成功の鍵を握っているといえるでしょう。

まとめ

画像セグメンテーションは、画像をピクセル単位で分割し、各領域に意味を持たせる画像処理技術です。画像分類や物体検出と比較して、物体の形状や境界まで正確に把握できる最も詳細な画像認識を実現できる特徴があります。

高精度なセグメンテーションには正確なアノテーションが不可欠であり、ピクセル単位での詳細な作業が求められる点が大きな課題です。半自動ツールの活用や専門家によるレビュー体制の構築により、品質とコストのバランスを取ることが成功を左右することを念頭に置いて、導入体制を検討しましょう。

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