データエンジニアリングの基礎とは?仕組み・役割・導入のポイント

企業が保有するデータは日々増加し続けており、その活用が競争優位性を左右する時代となりました。しかし、データをただ蓄積するだけでは価値を生み出せません。データを価値ある情報として活用するためには、適切な仕組みと管理体制が不可欠です。 そこで重要な役割を果たすのが「データエンジニアリング」です。本記事では、データエンジニアリングの基礎知識から具体的なプロセス、必要なスキルまで、データ活用を推進したい方に向けて詳しく解説します。

目次

データエンジニアリングの基礎知識

データエンジニアリングとは、データを価値ある情報として扱うための仕組み設計・構築・運用プロセスです。

企業が保有する膨大なデータは、そのままでは分析や意思決定に活用できません。データエンジニアリングは、データの収集から変換、保存、提供に至るまでの一連のプロセスを最適化し、データを活用可能な状態にするための技術領域を指します。

データエンジニアリングの役割を理解するために、まずは基本的な概念と注目される理由、そして構成要素について見ていきましょう。

・データエンジニアリングとは
・データエンジニアリングが注目されている理由
・データエンジニアリングの構成要素

データエンジニアリングとは

データエンジニアリングとは、ビッグデータや機械学習の分析・予測に用いられる、データの抽出・変換・格納プロセスの設計や開発、管理を包括的におこなう分野を指します。

具体的には、データベースやデータウェアハウス、データレイクなどのデータ基盤を構築し、複数のシステムから収集したデータを分析可能な形に整理・変換します。これにより、データサイエンティストやデータアナリストが効率的にデータ分析をおこなえる環境を整えるのです。データエンジニアリングは、データサイエンスを現実世界に応用するための基盤となる重要な技術領域といえるでしょう。

データエンジニアリングが注目されている理由

データエンジニアリングが注目を集めている背景には、データドリブン経営の普及があります。データドリブン経営とは、収集・蓄積されたデータ分析の結果に基づいて戦略や経営方針を決める経営手法です。

従来の経験や勘に頼る意思決定と比較して、データに基づく迅速かつ客観的な判断が可能となるため、多くの企業が導入を進めています。
しかし、データドリブン経営を実現するには、正確で整合性の高いデータが不可欠です。データエンジニアリングは、この前提となるデータ品質の確保とデータ基盤の構築を担う重要な役割を果たしています。

ビッグデータの普及に伴い、データエンジニアリングの重要性はますます高まっているといえるでしょう。

データエンジニアリングの構成要素

データエンジニアリングは、主に4つの構成要素から成り立っています。

工程 内容 主な技術
データ収集(Ingestion) センサー、アプリケーション、業務システムなどの多様なデータソースからデータを集める Apache Kafka、AWS Kinesis
データ変換(ETL/ELT) 形式・単位・命名の統一、欠損値の補完、不要なデータの削除といったクレンジング処理をおこなう

※ETL:変換してから格納すること
※ELT:格納してから変換すること

Apache Spark、dbt
データ保存(データレイク/DWH) 構造化・非構造化データを目的に応じて格納

※データレイク:生データを保存すること
※データウェアハウス:整理済みデータ保存すること
Amazon S3、BigQuery、Snowflake
データ提供(API/BIツール) 必要な人が必要な時にデータを活用できる環境を整備する Tableau、Power BI、REST API

これらの各工程が連動することで、正確かつ活用可能なデータが初めて完成します。

データエンジニアリングのプロセス

データエンジニアリングは、単にデータを保存するだけでなく、組織全体でデータを活用できる状態にするための一連のプロセスです。

ここでは、データの収集から提供、そして運用・改善に至るまでの各プロセスについて詳しく解説します。各プロセスがどのように連携し、データの価値を最大化するのか理解していきましょう。

・データの収集
・データの前処理・変換
・データの保存・管理
・データの提供・活用
・運用・改善

データの収集

データ収集は、データエンジニアリングの出発点となる重要なプロセスです。企業内外の多様なデータソースから、必要なデータを効率的に取得します。

データソースには、業務システム、IoTセンサー、Webアプリケーション、外部API、ログファイルなど多岐にわたります。収集方法には、一定間隔でまとめて取得するバッチ処理と、発生したデータを即座に取得するストリーミング処理があり、用途に応じて使い分けます。

なお、データの品質を担保するためにデータ収集の段階で、データの信頼性やセキュリティを確保する仕組みを組み込むことが重要です。この工程の品質が、後続の全プロセスに影響を与えるため、慎重な設計が求められます。

データの前処理・変換

収集したデータは、そのままでは分析に適していない場合がほとんどです。そのため、データの前処理・変換プロセスでは、データを分析可能な形式に整えます。

データを抽出して変換処理を施してから格納する工程を「ETL」、データを格納してから変換処理をする工程を「ELT」と呼びます。この2つの違いは、変換処理をおこなうタイミングとそれに伴う特性にあります。

項目 ETL (Extract, Transform, Load) ELT (Extract, Load, Transform)
処理の順序 抽出 → 変換 → 格納 抽出 → 格納 → 変換
変換処理の場所 データウェアハウス外部(ETLサーバー) データウェアハウス内部
メリット ・変換済みの整ったデータのみを格納

・ストレージコストを抑えられる

・データ品質を事前に担保

・生データを迅速に格納可能

・クラウド環境の処理能力を活用

・後から柔軟に変換ルールを変更可能

デメリット ・変換処理に時間がかかる

・変換ルール変更時に再処理が必要

・ETL専用サーバーの運用コスト

・大量の生データを格納するストレージコスト

・変換処理がDWHのリソースを消費

適したケース ・オンプレミス環境

・データ量が限定的

・変換ルールが確定している

・クラウド環境

・ビッグデータ処理

・探索的データ分析が必要

近年は、クラウドストレージの低コスト化とデータウェアハウスの処理能力向上により、ELT方式が主流になりつつあります。

データの保存・管理

変換されたデータは、目的に応じて適切なストレージに保存されます。主なストレージには、データレイクとデータウェアハウス(DWH)があります。

データレイクは、構造化データと非構造化データを含むあらゆる形式のデータを、そのままの状態で保存する大容量のリポジトリです。柔軟性が高く、将来の分析ニーズに備えて生データを保持できます。
一方、データウェアハウスは、整理・構造化されたデータを保存し、高速なクエリ処理とBIツールでの分析に最適化されています。

多くの企業では、両方を組み合わせたハイブリッド構成を採用し、データの特性や用途に応じて使い分けるのが一般的です。適切なストレージ戦略により、データアクセスの効率化とコスト最適化が実現できます。

データの提供・活用

保存されたデータを、実際にビジネスで活用できる形で提供するのがこのプロセスです。データを必要とする人々が、適切なタイミングで適切な形式でアクセスできる環境を整えます。

データ提供の手段には、APIを通じた自動連携、BIツールによる可視化ダッシュボード、SQLクエリによる直接アクセスなど、さまざまな方法があります。
データサイエンティストには機械学習モデル用の学習データを、経営層には意思決定に必要な集計レポートを、現場担当者にはリアルタイムのダッシュボードを提供するといった具合に、ユーザーのニーズに合わせた形でデータを届けることが重要です。

また、データガバナンスに基づいたアクセス権限の管理により、セキュリティとコンプライアンスを確保します。

運用・改善

データエンジニアリングは、一度構築したら終わりではありません。継続的な監視と改善により、データ基盤の品質とパフォーマンスを維持・向上させます。
運用フェーズでは、データパイプラインの稼働状況、処理時間、エラー発生率、データ品質などを常時モニタリングします。異常を検知した際には、迅速に対応して業務への影響を最小限に抑えることが重要です。

また、データ量の増加やビジネス要件の変化に対応するため、定期的にシステムの見直しと最適化をおこないます。パフォーマンスのボトルネック解消、新たなデータソースの追加、処理プロセスの効率化など、継続的な改善活動がデータ基盤の価値を高めるのです。

データエンジニアリングに必要な基礎スキル

データエンジニアリングを実践するには、技術的なスキルだけでなく、ビジネス理解やコミュニケーション能力も求められます。

ここでは、データエンジニアリングに携わる際に必要となる主要なスキルについて解説します。これらのスキルを段階的に習得することで、データエンジニアとしての専門性を高めることができるでしょう。

・データベースとデータ構造の知識
・ETL/データパイプライン構築スキル
・プログラミングスキル
・クラウド/インフラの知識
・データガバナンス・運用スキル
・コミュニケーション・要件定義スキル

データベースとデータ構造の知識

データエンジニアリングの基盤となるのが、データベースとデータ構造に関する深い理解です。リレーショナルデータベースとNoSQLデータベースの特性を把握し、用途に応じて適切に選択できる能力が求められます。

リレーショナルデータベースでは、正規化の概念、インデックス設計、トランザクション管理などの知識が必要です。NoSQLデータベースでは、キーバリュー型、ドキュメント型、カラム指向型、グラフ型といった各種データモデルの特徴を理解する必要があります。

さらに、データの整合性や可用性を確保するためのデータモデリングスキルも重要です。効率的なクエリ実行のためのインデックス設計や、大量データを扱うためのパーティショニング戦略なども知識として習得しておきましょう。

ETL/データパイプライン構築スキル

データの抽出・変換・格納を自動化するETL/データパイプライン構築は、データエンジニアリングの中核をなすスキルです。データの流れを設計し、効率的かつ信頼性の高いパイプラインを構築する能力が求められます。

ワークフロー管理ツールの使用経験、エラーハンドリングやリトライ処理の実装、データ品質チェックの組み込みなど、実践的なスキルが必要です。

また、バッチ処理とストリーミング処理の違いを理解し、ビジネス要件に応じて適切な方式を選択することも重要です。データパイプラインのスケーラビリティを考慮し、データ量の増加に対応できる設計をおこなう能力も求められます。

プログラミングスキル

データエンジニアリングには、実装を担うプログラミングスキルが不可欠です。特にPythonとSQLは、データエンジニアリングの現場で最も頻繁に使用される言語となっています。

Pythonは、データ処理のためのライブラリが豊富であり、データ変換や自動化スクリプトの作成に広く活用されます。SQLは、データベースからのデータ抽出や集計に必須のスキルです。

さらに、大規模データ処理にはJavaやScalaといった言語の知識も有用となります。プログラミングスキルは単に言語を書けるだけでなく、効率的で保守性の高いコードを書く能力、バージョン管理システム(Git)の活用、テストコードの作成といった実践的なスキルも含まれます。

クラウド/インフラの知識

現代のデータエンジニアリングは、クラウドプラットフォーム上で実装されるのが一般的です。具体的にはAWS、Google Cloud Platform、Microsoft Azureといった主要なクラウドサービスに関する知識が必要となります。

各クラウドプラットフォームが提供するデータストレージ、データウェアハウス、データ処理サービスなどの特徴を理解することが重要です。

さらに、クラウド環境を自動で構築・管理するツールの使用経験も、効率的なインフラ管理に役立ちます。コスト最適化やセキュリティ設定についての知識も、実務では欠かせません。

データガバナンス・運用スキル

データエンジニアリングでは、データの品質管理とセキュリティ確保が極めて重要です。データガバナンスと運用に関するスキルは、データ基盤の信頼性を支える基盤となります。

データ品質の定義と測定方法、データリネージ(データの流れと変換履歴)の管理、アクセス制御とセキュリティポリシーの実装などが求められます。
また、GDPRやCCPAといったデータ保護規制への対応も必要です。監視ツールを活用したシステムのモニタリング、ログ分析によるトラブルシューティング、障害時の復旧手順の整備といった運用スキルも重要となります。

データカタログの整備により、組織内でのデータ活用を促進することも、データエンジニアの役割のひとつです。

コミュニケーション・要件定義スキル

技術的なスキルだけでなく、ビジネス部門との円滑なコミュニケーション能力も、データエンジニアには求められます。データ活用の目的を正確に理解し、技術的な解決策に落とし込む能力が必要です。

ビジネス要件をヒアリングし、技術的な制約や実現可能性を考慮しながら、最適なデータ基盤の設計を提案するスキルが重要となります。

加えてデータサイエンティスト、アナリスト、ビジネス部門といった多様なステークホルダーと協働し、それぞれのニーズを理解して調整する能力も必要です。また、技術的な内容を非技術者にもわかりやすく説明するプレゼンテーションスキルや、ドキュメント作成能力も実務に必要なスキルといえるでしょう。

まとめ

データエンジニアリングは、データを価値ある情報として活用するための基盤を構築する重要な技術領域です。データの収集から変換、保存、提供、そして運用・改善に至るまでの一連のプロセスを通じて、組織全体のデータ活用を支えています。

データエンジニアリングを実践するには、データベースやプログラミングといった技術的なスキルに加え、ビジネス理解やコミュニケーション能力も必要です。これらのスキルを段階的に習得し、継続的に学び続けることで、データドリブンな組織づくりに貢献できるでしょう。

データ活用の重要性が高まる現代において、データエンジニアリングの役割はますます大きくなっています。本記事で紹介した基礎知識とプロセスを理解し、自社のデータ活用戦略に活かしていただければ幸いです。

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