アノテーションにおけるセグメンテーションについて解説!画像/動画学習における重要性

物体の境界を正確に識別したり、複雑な形状を認識したりするAIを構築するには、「どこに何があるのか」を細かく教え込んだ学習データが欠かせません。 そのとき重要な役割を果たすのが、画像や動画の領域を細かく区切ってラベルを付ける セグメンテーション という手法です。 AI開発では、用途によっては「ピクセル単位」のきめ細かなラベリングが必要になります。 本記事では、アノテーションとセグメンテーションの関係性から、代表的な手法、活用領域までを体系的に整理して解説します。

目次

アノテーションとセグメンテーションの関係

AI開発の現場では、「アノテーション」「セグメンテーション」という用語が頻繁に登場しますが、この2つは役割が異なります。ここでは、それぞれの定義と関係性を明確にします。

・アノテーションはAIの学習データを整える工程
・セグメンテーションはアノテーションの中で精密な方式
・アノテーションとセグメンテーションの比較

アノテーションはAIの学習データを整える工程

アノテーションはデータに意味情報を与えてAIが学習できる状態に整える工程を指し、画像・動画・音声・テキストなど多様なデータ形式に対して行われます。
たとえば画像では「この領域は犬」「この部分は歩行者」、テキストでは「この文は肯定的な感情」といったように、データの特徴を明確に示す情報を付与します。

一方でセグメンテーションは、アノテーションという大きな概念の中に含まれる領域ラベリング形式の一つです。

対象物の輪郭に沿ってピクセル単位でクラスを割り当てるため、形状理解が必要な場面で重要な役割を果たします。検出のように枠で囲むだけでは把握しきれない境界情報まで正確に示せる点が特徴です。

セグメンテーションは高精度な領域アノテーション方式

セグメンテーションは、アノテーションの一種であり、特に画像や動画に対してピクセル単位で領域を塗り分ける技術です。バウンディングボックスによる物体検出よりも詳細な情報を提供できるアノテーション手法といえます。

この手法では、画像内の各ピクセルに対してクラスラベルを割り当てます。たとえば自動運転の文脈では、画像内の各ピクセルが「道路」「歩行者」「車」「建物」といったクラスのいずれに属するかを判定します。

物体検出が矩形の枠で対象を囲むのに対し、セグメンテーションは対象の正確な形状まで捉えることが可能です。

なおさらに高度な手法として、同じクラス内の個別物体を区別するインスタンスセグメンテーションや、セマンティックセグメンテーションとインスタンスセグメンテーションを統合したパノプティックセグメンテーションなども存在します。

アノテーションとセグメンテーションの比較

両者の違いをより明確にするため、以下の表で主要な比較項目をまとめました。

比較項目 アノテーション セグメンテーション
定義 データに意味を与える作業全般 ピクセル単位で領域を塗り分ける技術
位置づけ 上位概念 アノテーションの一種
対象データ 画像・動画・音声・テキストなど 主に画像・動画
出力形式 クラスラベル・座標・属性など ピクセルごとのマスク画像
精度要求 中程度 高い(境界情報が必要)
コスト 低〜中 高(工数が多い)
主な用途 機械学習データ全般 医療・自動運転・検査AIなど

この表から分かるように、セグメンテーションはアノテーションの中でも特に高精度が求められる手法であり、その分コストも高くなります。

セグメンテーションがアノテーションに重要な理由

セグメンテーションは、他のアノテーション手法と比較してコストと工数がかかります。それでも多くのAIプロジェクトでセグメンテーションが採用されるのは、明確な理由があるからです。

ここでは、セグメンテーションが重要視される背景を解説します。

・高精度なモデルにはピクセル単位の教示データが必要
・形状・境界情報が成果物の安全性と信頼性を左右する

高精度なモデルにはピクセル単位の教示データが必要

AIモデルが複雑なタスクを正確に実行するためには、詳細な学習データが不可欠です。特に対象物の正確な形状や位置を把握する必要がある場合、ピクセルレベルの情報が求められます。

物体検出のような矩形ベースのアノテーションでは、対象物の大まかな位置は分かりますが、正確な形状までは捉えられません。たとえば、不定形の物体や重なり合った複数の物体を識別する場合、矩形だけでは不十分な情報となります。

一方でセグメンテーションによるピクセル単位のラベリングがあれば、AIモデルは対象物の正確な輪郭を学習できます。この詳細な情報により、より高精度な予測と判断が可能になるのです。

形状・境界情報が成果物の安全性と信頼性を左右する

セグメンテーションが提供する境界情報は、AIシステムの安全性と信頼性に直結します。特に人命に関わる分野では、この精度が極めて重要です。

自動運転では、歩行者や他の車両の正確な位置と形状を把握することが、安全な走行の前提条件です。数センチメートルの誤差が重大な事故につながる可能性があるため、ピクセルレベルの精度が求められます。

医療画像診断でも同様です。腫瘍の正確な境界を特定することは、治療計画の立案や予後の予測に不可欠な情報となります。

医療の分野などこうした高い安全性と信頼性が求められる領域で、セグメンテーションは不可欠な技術となっています。

セグメンテーションの主なアプローチ・技法

セグメンテーションを実現するための技術は、機械学習の発展とともに進化してきました。ここでは、代表的なアーキテクチャと手法を紹介します。

・SegNet
・FCN(Fully Convolutional Network)
・DeepLab
・R-CNN/Mask R-CNN
・RNN(Recurrent Neural Network)

SegNet

SegNetは、エンコーダ・デコーダ構造を採用したセグメンテーションモデルで、特に「メモリ効率の高さ」が特徴です。エンコーダではプーリング時に得られるインデックスマップを保持し、デコーダではこのインデックスを用いてアップサンプリングを行います。

この方法により、位置情報を維持しつつ効率的に解像度を復元でき、余分なパラメータを抑えたまま領域推定を行える点が強みです。高いメモリ効率のため、リアルタイム処理や、計算資源が限られた環境での利用に適しています。

FCN(Fully Convolutional Network)

FCNは、セマンティックセグメンテーション分野の基盤を築いた先駆的な構造です。従来のCNNに含まれていた全結合層を取り除き、ネットワーク全体を畳み込み層とアップサンプリング層のみで構成することで、任意サイズの入力画像に対応できるようになりました。

この構造により、画像全体を一度に処理しながら、入力と同じ空間解像度の予測マップを生成できます。FCNは境界精度こそ後続モデルに比べると粗くなりがちですが、その設計思想はU-NetやDeepLabなど多くのモデルの基盤となり、この分野の発展に大きく貢献しました。

DeepLab

DeepLabは、アトロス(拡張)畳み込みを活用して広い受容野を確保しつつ、解像度を保ったまま文脈情報を取り込む構造が特徴の高精度セグメンテーションモデルです。シリーズとして複数のバージョンが開発されており、v2以降ではASPP(Atrous Spatial Pyramid Pooling)と呼ばれる多段階特徴統合の仕組みが導入されています。

ASPPは複数の膨張率を持つ畳み込みを並列に用いることで、異なるスケールの情報を同時に取得できるようにしたものです。この設計により、遠景・近景が混在するシーンでも精度が安定し、自動運転や衛星画像解析など、高度な認識精度が求められる場面で広く利用されています。

R-CNN/Mask R-CNN

Mask R-CNNは、Faster R-CNNを基盤として「物体検出」と「ピクセル単位のマスク生成」を同時に実行できるよう拡張したモデルです。RPN(Region Proposal Network)で候補領域を抽出し、それぞれの領域に対してクラス分類・位置推定・マスク生成を行います。

この仕組みにより、同じクラスの物体が複数存在する画像でも、それぞれを個別のインスタンスとして切り分けられます。人物が複数写った画像のように、個体識別が必要なインスタンスセグメンテーションのタスクに適したモデルとして広く評価されています。

RNN(Recurrent Neural Network)

RNNは、主に時系列データの処理に用いられるニューラルネットワークですが、セグメンテーションにも応用されています。特に動画のセグメンテーションにおいて、時間的な連続性を考慮した処理が可能です。

動画では、前後のフレーム間に強い相関があります。RNNを活用することで、この時間的な情報を活用し、より一貫性のあるセグメンテーション結果が得られます。

また、医療画像のような連続スライスを持つデータに対しても、RNNベースのアプローチが有効な場合があります。スライス間の関係性を考慮することで、3次元的な構造理解が向上します。

セグメンテーションが活用される主な分野と事例

セグメンテーション技術は、さまざまな産業分野で実用化されています。高精度な境界情報が求められる領域では、この技術が不可欠となっています。
ここでは、代表的な活用分野と具体的な事例を紹介します。

・顔認証
・自動運転
・医療画像診断
・AIドローン・リモート点検
・外観検査

顔認証

顔認証システムでは、一般的に物体検出と特徴抽出の組み合わせが主流ですが、特定の条件下ではセグメンテーションも活用されています。特にマスク着用が一般化した環境では、その有用性が高まっているのが特徴です。

マスクやサングラスなどで顔の一部が隠れている場合、セグメンテーションにより見えている部分を正確に抽出することで、認証精度を維持可能です。また、複雑な背景や複数の人物が写っている画像でも、セグメンテーションにより個々の顔領域を正確に分離できる場合があります。

ただし、標準的な顔認証システムの多くは、バウンディングボックスベースの検出と深層学習による特徴抽出を組み合わせた手法を採用しており、セグメンテーションは補助的な役割にとどまることが一般的です。

自動運転

自動運転は、セグメンテーション技術が最も重要な役割を果たす分野の一つです。走行環境の正確な理解は、安全な自動運転の前提条件となります。

自動運転を実現するには、道路、車線、歩行者、他の車両、信号機、標識など、あらゆる要素をピクセルレベルで識別する必要があります。特に歩行者や自転車など、保護すべき対象の正確な位置と形状把握は極めて重要です。また、雨や霧などの悪天候下でも安定したセグメンテーション性能が求められます。

こうした厳しい要求を実現するために、セグメンテーション技術により、走行環境をより正しく理解するための研究が実施されています。

医療画像診断

医療画像診断では、セグメンテーションが診断支援や治療計画に不可欠な技術となっています。病変部位の正確な特定は、適切な治療方針決定の基盤となるからです。

たとえば、CT画像やMRI画像から、腫瘍や臓器の境界を正確に抽出することで、病変のサイズや形状、周囲組織との関係を詳細に把握できます。この情報は、手術計画や放射線治療の設計に直接活用が可能です。

また、時間経過による病変の変化を追跡する際も、セグメンテーションにより定量的な比較が可能になるなど、医療分野の診断のスピードや精度の向上に貢献しています。

AIドローン・リモート点検

インフラ点検や災害調査の分野では、ドローンによる空撮画像のセグメンテーションが活用されています。ドローンを活用すれば、広範囲の構造物や地形を効率的に分析できるため、高い場所や大きな構造物も効率的に分析可能です。

橋梁やトンネルなどの構造物では、ひび割れや劣化箇所を自動検出するためにセグメンテーションが用いられており、損傷部分の正確な位置と範囲を特定することで、補修の優先順位付けや工事計画の立案の効率化を実現しています。

また、災害現場では、建物の倒壊状況や土砂崩れの範囲を迅速に把握するためにセグメンテーションが活用されてます。人が立ち入れない危険な場所でも、ドローンによる空撮とAI分析により、安全かつ迅速な状況把握が可能です。

外観検査

製造業における品質管理では、製品の外観検査にセグメンテーションが応用されています。外観検査では微細な欠陥や異物を高精度で検出することが求められるため、セグメンテーションとの相性はかなり良いといえるでしょう。

具体的にはセグメンテーションにより、製品表面の傷、汚れ、色ムラなどを正確に識別できます。欠陥の位置、サイズ、形状を定量的に評価することで、品質基準への適合判定が自動化できるため、検査にかかる時間も大幅に削減可能です。

また、複雑な形状を持つ部品でも、セグメンテーションにより全体を正確に把握できます。組み立て工程での位置ずれや部品の欠損なども、高精度で検出可能です。こうした技術により、製造現場の品質管理が大幅に効率化されています。

まとめ

セグメンテーション・アノテーションは、AIが画像や動画から詳細な情報を抽出するための重要な技術です。アノテーションの一種として位置づけられますが、ピクセルレベルの精密さが求められる点で他の手法とは一線を画します。

高精度なAIモデルを構築するには、対象物の正確な形状と境界情報が不可欠です。特に自動運転や医療画像診断など、安全性と信頼性が重要視される分野では、セグメンテーションなしには実用的なシステムを構築できません。

今後もAI技術の進展とともに、より高精度で効率的なセグメンテーション手法が登場していくでしょう。セグメンテーション・アノテーションへの理解と活用が、高度なAIシステム構築の鍵となります。

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