MLOpsとは?機械学習モデルの開発・運用を効率化する仕組みと導入のポイントを解説
2026.02.18
AIや機械学習を活用したシステムが急速に増加する中、モデルの開発だけでなく本番環境での安定運用が重要な課題となっています。検証環境では高い精度を示したモデルが、本番環境では期待どおりに機能しないケースは珍しくありません。 こうした課題を解決する手法として注目されているのが「MLOps」です。MLOpsは、機械学習モデルの開発から運用までのライフサイクル全体を効率化するためのアプローチであり、DevOpsの考え方を機械学習に拡張した概念として多くの企業に採用され始めています。 本記事では、MLOpsの基本的な定義から、なぜ今必要とされているのか、DevOpsとの違い、導入プロセス、代表的なツール、そしてAI開発におけるデータ品質との関係までに解説します。自社のAI開発体制を見直す際の参考にしてください。
MLOpsとは
MLOps(エムエルオプス)は「Machine Learning」と「Operations」を組み合わせた造語で、機械学習モデルの開発・デプロイ・運用を一貫して管理するための手法を指します。DevOpsの原則を機械学習プロジェクトに適用することで、モデルの品質と信頼性を維持しながら開発サイクルを効率化する仕組みです。ここでは、MLOpsの基本的な定義と構成要素について整理します。
- MLOpsの定義と目的
- 機械学習ライフサイクルとMLOpsの関係
- MLOpsを構成する主要な要素
MLOpsの定義と目的
MLOpsとは、機械学習モデルの開発から本番環境への展開、そして継続的な運用までを体系的に管理するための手法です。ソフトウェア開発で広く実践されているDevOpsの原則、すなわちCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)、自動化、チーム連携といった考え方を機械学習の領域に適用した概念として位置づけられます。
MLOpsの目的は、機械学習モデルの品質と信頼性を維持しながら、開発から運用までのプロセスを効率化することにあります。従来の機械学習プロジェクトでは、データサイエンティストが構築したモデルを本番環境に移行する際に多くの課題が発生していました。
具体的には、ローカル環境と本番環境の差異によるモデルの動作不良、モデルバージョンの管理不足、精度劣化の検知遅れといった問題です。MLOpsはこれらの課題に対して、自動化された一貫したプロセスを提供することで解決を図ります。
機械学習ライフサイクルとMLOpsの関係
機械学習モデルの開発は、一度作って終わりではなく、継続的な改善サイクルが求められます。機械学習ライフサイクルは「データ収集→データ前処理→モデル学習→評価→デプロイ→モニタリング→再学習」という一連のサイクルで構成されており、MLOpsはこのサイクル全体を効率的に回すための仕組みです。
とくに重要なのは、デプロイ後のモニタリングと再学習のフェーズです。市場やユーザー行動の変化に伴い、モデルが学習したデータと実際の運用データの間にずれが生じるため、定期的な精度検証と再学習が不可欠です。
MLOpsを導入することで、このライフサイクルの各工程を自動化し、手動作業によるミスや属人化を防ぎながら、安定した運用体制を構築できます。
MLOpsを構成する主要な要素
MLOpsは複数の技術要素を組み合わせて構成されます。以下の表に、主要な構成要素を整理しました。
| 構成要素 | 概要 |
| CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー) | コードやモデルの変更を自動テスト・自動デプロイする仕組み |
| CT(継続的トレーニング) | データの変化に応じてモデルを自動的に再学習させる仕組み |
| モデルバージョン管理 | モデルの変更履歴を追跡し、再現性を確保する |
| モニタリング | 運用中のモデル性能やデータドリフトを監視する |
この中でとくに注目すべきはCT(継続的トレーニング)であり、これはDevOpsには存在しないMLOps固有の要素です。通常のソフトウェアではコードを更新すれば動作が変わりますが、機械学習モデルはデータの変化によって精度が変動するため、継続的な再学習の仕組みが欠かせません。
これらの要素を適切に組み合わせることで、機械学習モデルの開発・運用を包括的に管理する体制が整います。
MLOpsとDevOps・AIOpsの違い
MLOpsはDevOpsから派生した概念ですが、機械学習特有の課題に対処するための独自の要素をもっています。また、類似の用語としてAIOpsやDataOpsも存在するため、それぞれの違いを正しく把握しておくことが重要です。ここでは、MLOpsと関連する概念の違いを整理します。
- MLOpsとDevOpsの違い
- MLOpsとAIOps・DataOpsの違い
MLOpsとDevOpsの違い
MLOpsとDevOpsは自動化やチーム連携を重視する点で共通していますが、管理対象と運用プロセスに決定的な違いがあります。DevOpsの管理対象が「コード」であるのに対し、MLOpsでは「コード+データ+モデル」の3つを同時に管理する必要がある点が最大の相違点です。
| 項目 | DevOps | MLOps |
| 対象 | ソフトウェア全般 | 機械学習モデル |
| 管理対象 | コード | コード+データ+モデル |
| テスト内容 | ユニットテスト、統合テストなど | モデル精度評価、データ検証、バイアス検証 |
| 継続的トレーニング | なし | あり(CT) |
ソフトウェア開発では、コードの変更をテストしてデプロイすれば基本的に動作が確定します。一方、機械学習ではデータの質や量がモデルの動作に直接影響するため、データの管理とモデルの再学習を含めた運用体制が求められます。
MLOpsとAIOps・DataOpsの違い
MLOpsに加えて、AIOpsやDataOpsも混同されやすい概念として知られています。3つの概念は「何を対象に」「何を効率化するか」という点で明確に異なるため、自社の課題に応じて適切なアプローチを選択する必要があります。
AIOpsは「AIを使ってシステム運用を自動化する手法」を指し、大量のログデータやアラート情報をAIで分析することで、障害の予兆検知やインシデント対応の効率化を実現する仕組みです。一方、DataOpsはデータの管理者と利用者が連携してデータ活用を効率化する手法であり、データパイプラインの品質向上に重点を置いています。
MLOpsはこれらとは異なり、機械学習モデルそのものの開発・運用ライフサイクルを効率化する手法です。AIOpsが「AIによる運用」、DataOpsが「データの運用」に焦点を当てるのに対し、MLOpsは「AIモデルの運用」に特化している点が大きな違いといえます。
MLOpsが必要とされる理由
機械学習モデルは開発しただけでは十分な成果を得られず、本番環境での継続的な改善が不可欠です。MLOpsが注目される背景には、AI活用の拡大に伴う運用面の課題が大きく関わっています。ここでは、MLOpsが求められる3つの主な理由を解説します。
- モデル精度の劣化(データドリフト)への対応
- 開発・運用チーム間の連携不足の解消
- AI開発のスケーラビリティ確保
モデル精度の劣化(データドリフト)への対応
機械学習モデルは、時間の経過とともに予測精度が低下する「データドリフト」という現象が発生します。データドリフトとは、モデルが学習に使用したデータと、運用環境で処理する実際のデータの統計的特性が乖離していく現象で、モデルの判定精度を徐々に低下させる原因です。
たとえば、消費者の購買行動を予測するモデルの場合、季節変動やトレンドの変化によって過去の学習データが現在の状況を反映しなくなるケースがあります。こうした精度劣化は、定期的なモニタリングなしには検知が難しい問題です。
MLOpsのモニタリング機能とCT(継続的トレーニング)を組み合わせることで、データドリフトを早期に検知し、自動的にモデルを再学習させる仕組みを構築できます。手動での対応と比較して、精度劣化への対処スピードが大幅に向上する点が大きなメリットです。
開発・運用チーム間の連携不足の解消
機械学習プロジェクトでは、データサイエンティスト(開発側)とMLエンジニア・IT運用チーム(運用側)の間にギャップが生じやすい傾向にあります。データサイエンティストがローカル環境で構築したモデルが本番環境で正常に動作しないケースは少なくなく、チーム間のプロセスやツールが統一されていないことがこの問題の原因です。
開発チームはモデルの精度向上に注力する一方、運用チームはシステムの安定稼働を重視するため、両者の間で優先事項が食い違う場面も多く見られます。こうしたサイロ化は、モデルのデプロイ遅延や品質低下を引き起こすリスク要因です。
MLOpsは共通のフレームワークとプロセスを導入することで、開発と運用の間の壁を取り除きます。統一されたパイプラインとバージョン管理の仕組みにより、チーム間の連携がスムーズになり、モデルの本番投入までのリードタイムを短縮できます。
AI開発のスケーラビリティ確保
企業がAI活用を拡大していくと、運用するモデルの数は必然的に増加します。手動管理の体制では、数十から数百のモデルを同時に監視・更新することに限界が生じるため、MLOpsによる体系的な管理基盤の構築が不可欠です。
1つのモデルを1つの業務に適用するだけではROIに見合わないケースも多く、複数の業務領域に並行してモデルを展開するアプローチが主流となりつつあります。こうした状況下で、各モデルの精度管理やバージョン管理を個別におこなうのは現実的ではありません。
MLOpsを導入すれば、モデルのデプロイ・監視・再学習を自動化し、スケーラブルな運用体制を構築できます。市場投入までの時間短縮とコスト削減を同時に実現でき、AI活用の本格的な拡大を支える基盤として機能する仕組みです。
MLOpsの導入プロセスと代表的なツール
MLOpsを自社に導入する際は、段階的にプロセスを整備していくアプローチが有効です。Googleが提唱するMLOpsの成熟度モデルでは、手動管理(レベル0)から完全自動化(レベル2)までの段階が定義されており、この段階的な考え方が広く参照されています。ここでは、導入プロセスと代表的なツールを紹介します。
- MLOps導入の基本ステップ
- 代表的なMLOpsツール・フレームワーク
MLOps導入の基本ステップ
MLOpsの導入は、一度にすべてを自動化するのではなく、段階的に成熟度を高めていくアプローチが効果的です。Googleが定義するMLOps成熟度モデルに沿って整理すると、レベル0(手動)からレベル2(CI/CD自動化)までの3段階で導入を進めることが推奨されています。
レベル0は「手動プロセス」の段階であり、データサイエンティストが個人のJupyter Notebookなどで実験し、モデルを手動でデプロイする状態です。多くの企業はこの段階からスタートします。レベル1は「パイプラインの自動化」に進む段階で、学習パイプラインを構築してCT(継続的トレーニング)を実現する体制を整える段階です。
レベル2は「CI/CD自動化」の段階で、パイプライン自体の自動テストと自動デプロイまで整備された状態を指します。最初から完全な自動化を目指す必要はなく、まずは小さな範囲から始めて段階的に成熟度を引き上げることが、MLOps導入を成功させるポイントです。
代表的なMLOpsツール・フレームワーク
MLOpsを実現するためのツールは数多く存在しますが、プロジェクトの規模や技術スタックに応じた選択が重要です。以下の表に、代表的なツールとその特徴を整理しました。
| ツール名 | 開発元 | 特徴 |
| MLflow | Databricks | オープンソース。実験管理・モデルバージョニングに強み。ベンダー非依存 |
| Kubeflow | Kubernetes上で動作。大規模環境向け。パイプラインの自動化に強み | |
| TFX(TensorFlow Extended) | TensorFlowベースのMLパイプライン構築プラットフォーム | |
| AWS SageMaker | Amazon | AWSのフルマネージドMLOpsプラットフォーム |
ツール選定においては、自社の技術基盤やクラウド環境、チームのスキルセットを考慮したうえで、段階的に導入範囲を広げていくことが重要です。オープンソースツールは小規模なスタートに適しており、クラウドベースのマネージドサービスは大規模な運用に強みを発揮します。
自社に合ったツールを見極めるためには、まず小さなプロジェクトで検証をおこない、運用実績を積んだうえで本格導入に移行する進め方が有効です。
MLOpsには適切なデータアノテーションが欠かせない
MLOpsの仕組みがどれほど整備されていても、学習データの品質が低ければ機械学習モデルの精度は向上しません。MLOpsパイプラインの起点となる教師データの品質を担保するのがアノテーション作業であり、MLOpsの成功にはアノテーション体制の整備が不可欠です。
アノテーションとは、データに正解ラベルを付与する作業を指し、画像のバウンディングボックスやテキストの分類タグなど、データの種類に応じて多様な手法が存在します。ラベルの一貫性やデータの網羅性が確保されていなければ、自動再学習のパイプラインを構築しても精度改善は期待できません。
とくに大規模なMLOpsプロジェクトでは、継続的に新しいデータが流入するため、アノテーションの品質管理とスケーラビリティを両立させる必要があります。専門のアノテーションサービスを活用することで、品質を維持しながら大量のデータ処理に対応できる体制を構築可能です。
まとめ
MLOpsは、機械学習モデルの開発から運用までのライフサイクル全体を効率化するための手法であり、DevOpsの原則を機械学習に拡張した概念です。データドリフトへの対応、チーム間連携の強化、スケーラビリティの確保といった課題を解決する仕組みとして、AI活用を本格化させる企業にとって不可欠な基盤となっています。
MLOpsの導入は段階的に進めることが成功のポイントであり、手動管理の段階からパイプラインの自動化、CI/CD自動化へとステップアップしていくアプローチが推奨されます。加えて、MLOpsの成果を最大化するためには、学習データの品質を担保するアノテーション体制の整備も欠かせません。
自社のAI開発を加速させるために、まずは現状のMLOps成熟度を把握し、改善すべき領域を特定するところから取り組んでみてください。

